妊娠中に胸やお腹が張る症状を中医学では「妊娠心腹脹満(しんぷくちょうまん)」という。
ひどいケースでは、呼吸がスムーズに行えない・両脇の痛みが生じる。
「胎水(羊水過多症)」も同様の脹り症状が生じる。ただ体内の水液物質の異常が原因である「胎水」に対して、「妊娠心腹脹満」は別問題とされている。主には「気の逆上現象(運行ルートが逆行すること)」が原因とされるが、詳細は以下の通り。
①胎熱(たいねつ)妊娠心腹脹満
熱により逆上して身体上部(胸部・腹部)に作用することが原因。妊娠中は陰分や血分は胎児に優先的に供給されてしまう。東洋医学では陰分は熱を冷ます・抑える作用があるとされており、陰分の不足は母体に熱を生じさせる。胸腹部の張り感ほか、呼吸が浅く早いといった症状が見られる。ほてりや口の渇き・動悸などの熱症状が身体においてみられる。
②肝鬱(かんうつ)妊娠心腹脹満
全身の気の運行を調整している五臓「肝」が機能失調を起すことで気の動きが逆上してしまうことが原因となる。栄養レベルが低く「肝」が十分養われていないこと・長期間ストレスフルな環境にさらされることなどが機能失調の原因として挙げられる。張り症状ほか、イライラしやすくなる・よくため息をつくなどの症状が見られる。
③気鬱(きうつ)心腹脹満
妊娠の後期に発育した胎児により母体の気の動き(巡り)が物理的に阻害されることで生じる。気が巡らずに末端(頭部・四肢)においては症状が出やすい(眩暈・頭が重い・手足に力が入らないなど)。胸部・腹部にも気が巡らないこと(ここでは停滞を指す)で脹感が出現する。
◎参考文献
「中医症状鑑別診断学」 人民衛生出版社
「中医病因病機学」 東洋学術出版社
「中医基本用語辞典」 東洋学術出版社
「漢方用語大辞典」 燎原出版社
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