どの業界でもその人の技量をはかるものはシンプルです。ピザならマルゲリータ、カクテルならジントニック、左官屋なら平らな壁。その中でいうと鍼灸治療は肩こりかなと私は勝手に思っております。
何故なら、患者さんは明確に自覚があり、治療が終わったら改善していて欲しいと思って来院されるからです。当たり前ですよね。患者さんという立場からすれば“痛み”という自覚症状を改善しなければ「来て良かった。」とはなりません。
しかし治療家はその肩こりの奥にある原因を探らなければなりません。例え一時的に痛みが取れても、根本原因を改善しなければ治療とは言えないからです。その為に以前杉本先生が書かれた肩こり②にある内臓疾患によるものの見極めが必要になります。中医学で言うなら、どこの臓腑からきているのか。温め、または冷やすと改善するのか。会話の中で出てきた気にも留めていなかった他の症状が実は本当の原因ではないかなど、肩こりの前後左右を見ながら今までの知識や経験を基に、その方の治療計画を立てなければなりません。
しっかりと話しを聞いた。原因も特定できた。さあ次はいよいよ鍼治療の開始!と言いたい所なのですが、ここで次の問題が出てきます。『患部(肩)に鍼を何本刺すか問題』です。どんなに患者さんの為だったとしても肩に鍼を一本か二本刺して「はい、治療は終了です。」と言われたら「あれ?肩こりで来たのに。」となってしまいますよね。それなら肩周辺のツボや硬くなっている場所だけに気が済むまで刺せば良いのですが、刺し過ぎは体調悪化を招きかねませんし、何より根本の治療になっていません。ここで、しっかりと分かりやすい説明をして信頼関係が築けていれば、例え肩に刺す鍼の本数が少なくても納得して下さるだろうし、コミュニケーションが取れていればその方に合った本数を追加したり、場所を変えたりできます。技術があれば痛み治療と根本治療の丁度良い中間地点を見つけて治療する事もできます。
このように、多くの方が一度は経験したであろう『肩こり』という症状を治療するには色々な能力と経験を活用し、柔軟な治療をする事が必要になります。簡単なようで難しい… まだまだ未熟ですが、一日も早く肩こりの奥を突き止め、患者さんに納得してもらえる治療ができる鍼灸師になろうと決意する今日この頃でした。
研修生 大久保昌哉
※新着時期を過ぎると左サイドバー《肩こり》に収められています。