胃脘痛とは胃痛や心窩部に現れる痛みのこと
文献には、「胃脘は心の痛みが当たる」、「心腹痛」、「心胃痛」との記載がある。
痛み方には虚痛、熱痛、寒痛、瘀痛、食痛、虫痛などがある。
古代文献では、心痛(心臓疾患を起因とするもの)も胃脘痛として記載されているが
実際の心痛は左の側胸〜肩に、突然発生する、鍼で刺されているような強烈な痛みが発生し
胸の悶えや窒塞が起こり、耐え難い苦痛が発生する
対して胃脘痛は上腹部にのみ発生する痛みで
全くもって症状の現れ方は異なってくる。
では、胃脘痛が発生する機序はどんなものなのだろうか
①脾胃虚寒
虚弱な体質の人や長患いにより脾胃の気が減少し、温める力や栄養する働きの低下によって
胃の栄養不足、冷えを生じさせた状態。
不栄即痛(栄養できないと即ち痛む)の法則に則り、胃脘部の痛みや冷えを生じる。
痛みは「しくしく」や「もやもや」といった鈍いような軽いような痛みがいつまでも持続し、お腹を抑えたり温めたりすると痛みが和らぐ。
その他、四肢の冷えや下痢、頻尿などが現れる
②寒邪犯胃
寒邪とは冷えが原因で身体に不調をきたす事。
外的要因の寒さや、刺身といった生食、冷たい物の食べ過ぎ飲み過ぎが脾胃に影響して起こる。
締め付けられるような強い胃痛が突然起こるのが特徴である。
③肝鬱気滞
怒りという感情により、肝の働きが鈍る。
肝は気の流れを調節する為に、気の流れが悪くなる。
その影響が真っ先に出るのが胃で、食物を下(腸)へ降ろす力が弱くなり、降りない気機が痛みを生じる。
気滞で特徴的な張ったような痛みが現れ、痛みは移動するかの如く場所が不安定である。
また、胸や肋骨部に関しても張ったような感じがするの特徴だ。
これにプラスして、胃の気が上がっている事を示す嗳気(げっぷ)が現れる。
④瘀阻胃絡
肝鬱気滞の状態が長引くと血の流れを悪くする。
また、胃痛が血の通り道を損傷する。
そういった理由で瘀血が生成される胃脘痛。
特徴は針で刺された様な痛み。痛む場所は、気滞とは異なり一点から動かないといったところ。
随伴症状として、血便がでたり、吐血が出たりする。
ここまで行くとかなり重症と考えられるだろう。
⑤肝火犯胃
こちらも肝鬱気滞から発展するもの。
滞った気が熱を帯びたり、辛いものや味の濃いものを食べすぎて熱が籠ったりすると発生する。
熱化してるが故、胃痛は突然に現れ痛みの程度も強い。
熱の症状として口の乾き、顔や目が赤くなる、呼吸が荒くなるなどが現れる。
⑥胃陰虚
長患いや熱病によって胃の潤いが消耗した状態。
肝火犯胃と同じように口の渇きや身体の熱さや火照りといった症状が現れるが、
違う点は、胃脘痛がシクシクとした、鈍い痛みであると言う事と、
肝火犯胃は顔や頭部に熱感があるのに対し、胃陰虚では手足や胸部に熱感を覚える。
⑦食積
暴飲暴食をきっかけに現れる胃脘痛。
食べ物が詰まっていると考えて頂けると想像しやすいだろう。
胃脘痛は、押圧すると嫌な感じがし、食欲の低下やゲップの匂いが腐ったような臭いになるなどの症状が現れる。
滞りの点では肝鬱気滞と似た症状があるが、こちらは胸の詰まり感や、張ったような痛みがないのが特徴的である。
食欲の増す季節ではあるが、食べ過ぎにはくれぐれも気をつけましょう
伊澤