食欲不振。広辞苑によると「食欲」は「食べたいという欲望・食意・くいけ」を指し、「勢いがふるわないこと」を指すそう。食べたいという欲望がふるわないという解釈でよいであろうか。
この食欲不振はどのようなシーンで生じるであろう。
・大事な会議を前にして緊張してしまった時
・仕事が忙しく疲れ果ててしまいついつい夕食を抜いてしまった
・発熱して寝込んでとてもではないけど食事はとれない
・食べ過ぎ・飲みすぎてしまった翌日
・夏の暑い日に食欲がわかない
…などが簡単にあげられる。
●食欲不振の東洋医学的分類●
食欲不振は古典では「不欲食」・「不欲飲食」・「納滞」・「納差」などと記載されている。
はなはだしければ食事を嗅いだり・見るだけでも気持ちわるくなるとされる。
中医書には7パターンの「食欲不振」が記載されているが共通してあげられることとして飲食物の初期消化に携わる「胃」の機能失調であることが挙げられる。「何が原因」で胃の機能失調が生じたか、「他の五臓」が影響して胃の機能失調を招いたかがポイントか。
①肝気犯胃食欲不振(ストレスタイプ)
いわゆるストレスで食欲がなくなってしまうタイプ。五臓の「肝」は全身の機能をスムーズに運行させる働きを有するが、ストレスにさらされることで「肝」の機能が失調する。全身の一部である「胃」においても働きがスムーズに行われなくなることで食欲不振が生じる。胸の張り感やのどのつまり感が生じてしまうことが特徴。ストレスの原因がなくなることで寛解する。
(例)重要な会議があり食事がのどを通らない。会議が終わったら安心してお腹がすいてきた。
②脾胃湿熱食欲不振(暴飲暴食タイプ)
「脾」「胃」の消化系統の機能失調によるが原因が飲食の不摂生や高温多湿な環境である。甘いもの・味の濃いもの・油が濃いものの食べ過ぎで生じる。おなかの苦しさ・嘔吐・便が柔らかいがすっきりと排出されないなどが身体症状として出現する。
(例)・宴会で食べ過ぎ・飲み過ぎてしまったもう何も食べたくない
・夏場湿気が強くて暑いためなんだか食欲が落ちてきた
③胃陰不足食欲不振(栄養状態低下タイプ)
胃自身の栄養状態・うるおい状態が低下することではたらきが悪くなったものを指す。栄養・潤いが低下する原因としては主に長期間続く発熱であり、熱が栄養・潤いを消耗することにより生じる。口の渇き・唇や舌の乾燥症状がみられる。
(例)発熱して寝込んでしまった。なんだか食欲がわいてこない。
④脾胃気虚食欲不振(疲労タイプ)
過労や食生活が原因。全身のエネルギー不足は消化活動にも影響が生じてしまう。特徴としては、食欲減退が徐々に進み、飢餓状態に気付かない。多くを食べてしまうと吐いてしまうことが挙げられる。
(例)疲れきってしまって夕食を食べる元気がない
⑤脾胃虚寒食欲不振(冷えタイプ)
「④の疲労タイプ」が進行したもの。冷たいものや体を冷やすものの食べ過ぎによりエネルギー不足に加えて消化器の冷えが生じる。④の症状に加えて、温めると緩解し、冷えると食欲減退がさらに進むことが挙げられる。
(例)寒い日にキンキンの冷えたビールの進みが悪い
⑥脾腎陽虚食欲不振(慢性化タイプ)
「④の疲労タイプ」が進行したもの。⑤同様冷えが原因となるが、消化器の温める役割を有する五臓の「腎」まで冷えが波及したものを指す。温めて軽減することが共通点として挙げられるが、慢性化しやすい・下腹部も冷える・朝明け方に下痢してしまうなどの症状がみられる。
⑦傷食食欲不振(食べ過ぎタイプ)
食べ過ぎ・消化に悪いものを食べることで胃の中に食べ物が停滞することにより生じる。「②暴飲暴食タイプ」と類似しているが、はっきりとした原因が挙げられることが特徴である。食べ物のにおいをかぐのも気持ち悪かったり、げっぷがでる・便に異臭がするなどの症状が出現する。
(例)お腹がいっぱいで何も食べたくない。
※例はあくまで正確性よりもイメージしていただくことを優先させていただいております。ご了承下さい。
●終わりに
7パターンの解説を行いましたが、いかがだったでしょうか?
中には類似した原因も多い印象があるかと思われます。ただ似ていても原因が異なれば治療方法も異なります。
原因となる生活習慣を見つけ出す作業も一緒にできればと考えておりますので、食欲不振でお悩みの方はぜひ一度当院までご相談下さい。
スタッフ 杉本
【参考文献】
①岩波書店「広辞苑」 新村出編
②「第二版中医症状鑑別診断学」 人民衛生出版社
※新着時期を過ぎると左サイドバー《胃腸の不調》に収められています。