■不妊症と治療の方向性■

○長期化した不妊症は体質、子宮の状態、精神状態などが絡み合い、より複雑な病態になってきます。鍼灸治療はいわばその3つの絡まった糸をほどく作業なのです。大きくは5つの部分を調整します。


@月経中の十分な活血(不必要な月経血を残さずに排出すること)

A低温相を高くする(低体温の方には必須です:目安36,2℃以下)

B十分な頸管粘液の確保(頸管粘液が出ることを自覚できない人に行います)

C高温相への素早い移行(目安として体温上昇に3日以上時間がかかる方に行います)

D高温相の安定(ジグザグ型、ひと山型、ふた山型などの方に行います)

※この5点を整えながら妊娠しやすいからだ作りを進めてゆくことになります。

 

 

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月経期間の治療

・子宮内で不要となった気血(子宮内膜)を外に排出する時期です。
・この時期は「体に不必要になった経血を出す」 という視点から治療します。これが活血です。これを怠ると血という状態に移行しやすくなります。血はもっとも妊娠しにくいタイプの一つに数えられます。

 

 月経後半〜排卵までの治療

・月経後半〜排卵までは卵胞が充実し、子宮内膜も厚みを増してゆく時期です。
・この時期の治療は主に子宮内に気血を増させ、卵胞の成長、内膜の増殖を促します。
この時期に十分な気血を溜めることができれば、LH(黄体形成ホルモン)の分泌を促しスムーズな排卵が可能になります。

・日常生活でもきちんと栄養と睡眠をとり、体を養う時期です。

 

 排卵期前後の治療

・卵膜を破って、卵子が飛び出す排卵期は、体に大きな変化が起こる時期です。
   「気」のめぐりが不安定だと排卵時期のズレが起こります。

・気の巡りを良くする疏肝調経の治療を行います。 受精ー着床の確立を上げるためあるツボを集中的に使うのもこの時期です。 

 

 排卵後〜月経・妊娠までの治療

・排卵した部分が黄体化し、そこから出る黄体ホルモンの働きにより体温が上昇します。

・上昇した体温を安定的に維持するため、腎陽および腎・脾の固摂作用を高める治療をおこないます。

・排卵後の体温上昇に時間がかかるなら、温灸を多用しながら治療をすすめます。

・日頃から腎を強化するため、リラックスした心持ちでのウォーキングをしてください。30分以上、週4回くらいが理想です。

・妊娠していたら、暖まった卵の状態がずっと続きます。この場合治療が切り替わり安胎の治療となります。

 

参考:この時期は妊娠するために、子宮では気の超過状態にあります。これが正常な状態です。妊娠しなければ、この気は使われることなく、月経開始までの間は行き場を失い滞ることになるのです(月経の際に、血とともに外に排出されます)。

これがかなりの人が胸の張りやお腹の張りを訴える理由です。イライラ感、頭痛などの症状も現れやすくなります。鍼灸治療はそのような症状の緩和にも有効です。   

 

 

 

 

 


個々に合わせた鍼灸治療


●不妊外来での治療効果は、人工受精・体外受精合わせて30%前後です。当院の症例でも42歳で妊娠されるまでの11年間に計40数回(人工30数回+体外7回、うち顕微授精もあり)という患者さんがおられました。鍼灸治療と併用しだしてから、1年半をかけてゆっくり体を整え、無事出産までたどり着きました。もちろん数回で妊娠される方もいます。

・ポイントは、先の月経周期に合わせた治療に、日常生活の傾向性や現時点での精神状態などを考慮し、それに対応するツボを加味してゆきます点です。

・職場や家庭でのストレス、妊娠しないことへの焦りなどを抱え、情緒不安定になり、その結果、FSH(卵巣刺激ホルモン)、LH(黄体形成ホルモン)の分泌に問題があれば、情緒不安定に体が反応しないためのツボ、さらに精神を安定させる効果のあるツボを選択します。

・骨盤内の循環障害、子宮内膜症、子宮筋腫などの方は、FSH(卵巣刺激ホルモン)、LH(黄体形成ホルモン)が分泌されても、卵巣がうまく反応してくれないことがあります。また体外授精などで受精卵ができても、着床の段でうまくいかない例も多く診ます。この際は、血流を促す活血のツボが不可欠です。

・年齢との兼ね合いもありますが卵巣の老化(失礼な物言いでごめんなさい)、子宮そのものの機能低下の方もおられます。子宮の気血を増やすため、その根源である腎の活動力をアップする補腎のツボを多用します。

・免疫的因子に問題があったり、重度の多膿疱性卵胞・子宮内膜症の方は、婦人科と並行し治療を進めてゆくのが良策です。糸をほぐすように、その人の状態および現状況を招いた原因を割り出し、活血、化痰、補腎など適切な治療を行います。

 

不妊治療の方向性/2012年不妊症の感想

2012年不妊治療は30例を越える(11月末まで)。そのうち14例が妊娠する。この割合が上位に位置するかどうかわかならない。平均年齢が限りなく40歳に近くなる、不妊外来に2年以上通う方が大半の現状を考えると悪い数字ではないと思う。

総括するとバッド(下向き矢印)

2例を除き不妊外来と併用する。

14例中第2子不妊が3例ある。

時間差移植による双子のケースが1例ある。

○妊娠は神のみぞ知るという側面がある。コウノトリが運んでくれるのかも知れない。

鍼灸の役割は妊娠の前提条件を整えることである。内膜の厚みを増す、卵子及び授精卵のグレードを高くする、BBTを安定させるなどである。

初めて内膜が10o越えを果たしたケースは7例。うち妊娠に至るケースは3例、15o以上に達し妊娠したものの、その後流産のケースもあった。

やはり、厚み+柔らかさが是非に必要だという思いを強くした1年でもあった。

柔らかさは現在測定する術がないので、推定でしかないが、活血を十分に施す必要がある。

年齢が高くなる、運動量が減るなどの状況、さらに数年前に内膜を厚くするためバイアグラ系の薬を用い、現在ではあまり使用していない経過から見ても、厚いだけではダメで柔らかいという視点も考慮しなければならない。

徐々にホルモン剤による刺激治療が効かなくなり、自然排卵の消失したケースもある。一端全身治療で体を整えてから、再度挑戦し妊娠に至るケースもあった。

ホルモン剤は総じて気血の増加に役立つが、その背後で妊娠を支える腎、肝、脾の機能向上には繋がらないようである。つまり子宮内に妊娠するための材料を送りこむが、それを生かす体内機能が落ちれば何にもならないという視点を大いに感じた1年であった。

実年齢と機能年齢には差がある。鍼灸はこの機能年齢を上げることができる。今年の最高齢妊娠は47歳である。本人もこちらも驚いた。

移植の前に数回治療するケースもある。運良く妊娠したケースも1例ある。やらないよりやるに越したことはないが、原始細胞が1次、2次を経て熟成するまでに約1年かかることも考え合わせると、長期治療になるケースが多い。いうなれば市民マラソンを走るようにゆっくり走って欲しいと思う。その途中、突然にゴールが来ることもある。

始めからダッシュしたら心がもたないばかりではなく、心のバランスを崩すケースもある。不妊治療中にうつ病を併発し他院から回ってきたケースも1例ある。

是非に体の声を聞こえる程度の速度でゆっくり構えて欲しい。何よりこの治療には精神の安定が重要ですから。よく休み、よく動き、ときに旅に出るくらいの腹づもりでいて欲しい。

2010年不妊症の総括

2010年4月以後は不妊症に力を注ぎました。

医道の日本、中医臨床、東医学研究で月経痛や不妊症の論文を書きながら、考えたてきたことを実践に移した年でもありました。
最低2周期(週に1度、計8回以上)来院してくださった方16名中、12名の方が妊娠して下さいました。(8回以前での妊娠1例を含める)/注:残念ながら1例は途中流産。

■16名全員が不妊外来と併用です。

■不妊外来の治療:タイミング法1名、人工授精期6名、体外受精5名、胚移植(桑実胚、胚盤胞)7名(鍼灸治療期に人工授精から体外授精に移行した方が3名います)

■年齢:年齢30代前半2名、30代後半11名、40代前半1名。

■鍼灸利用目的(動機)

1〜3回体外受精(胚移植含める)が成立せず、鍼灸の併用を選択した人が10名。

・知人の紹介で、「やってみたら」という方が4名。

・人工授精の補助としての位置づけ3名。

・BBTの安定(子宮の状態を向上させる)を求めて9名。

・他の愁訴のついでに1名。

・ネットで鍼灸で妊娠したブログを見た1名

複数回答あり。

◇妊娠12例の内訳 

・胚移植と鍼灸併用で妊娠   5例

・体外受精と鍼灸併用で妊娠 3例 

・人工授精と鍼灸併用で妊娠 2例  

・タイミング法と鍼灸        1例

・自然妊娠                      1例 

■妊娠12例のうち半数近くの5例が不妊外来の通院を休んでいる時期に鍼灸治療を継続し、体を整え妊娠に至った例です。

・2例が卵巣過剰刺激症候群で2周期の中断中、鍼灸治療を継続し、最初の胚移植で妊娠。

・1例は卵巣過剰刺激症候群で中断中、鍼灸治療を継続し、最初の体外受精で妊娠。

・1例は卵巣過剰刺激症候群で中断中、鍼灸治療を継続し、自然妊娠。

・1例は、第1子が鍼灸治療後の胚移植で妊娠し、第2子は凍結卵を用い、6回の治療を経て最初の胚移植で妊娠。

 

 

◇週1度の鍼灸治療継続することで、妊娠の確率がかなり上がると思います。

◇治療中の感想として、悶々鬱々とした精神状態では妊娠率がかなり下がるような気がします。これを解くことが妊娠率を上げるアプローチのひとつです。

◇西洋医学的アプローチで良い結果が得られない、あるいは何らかの事情で治療中断を余儀なくされたとき、鍼灸治療で体を整えるとことが重要であるという結果が出ました。

◇鍼灸治療で子宮力をつけ、再度西洋医学的治療に参戦すると非常に良い結果が得られると思います。

 

 


 

妊娠レベルが低いと予想される患者さんには

不妊歴が10年以上に及ぶ方、E2が極端に低い方、卵巣嚢腫をもつ方あるいは年齢的なリスクを抱える方など、比較的妊娠レベルが低いと予想できるケースでは邱紅梅先生とカンファレンスをいたします。

kyuu.jpg邱先生は北京中医薬大学出身で北京で婦人医としてご活躍されていました。婦人科医として専門知識、とくに不妊症の症例に関しては豊富な経験をお持ちです。邱先生については「漢方養生法」「漢方的183のアイディア」(ともにオレンジページ)、「わかる中医学入門」(燎原出版)、生理で診断体質改善法(家の光協会)などに、その考え方が示されています。